MEET YOUR ART FESTIVAL 2022 「New Soil」

恵比寿ガーデンプレイスにてインスタレーション展「The Voice of No Mans Land」

2022年5月13日(金)より15日(日)まで開催された MEET YOUR ART FESTIVAL 2022: New SOIL のアートインスタレーション展「The Voice of No Mans Land」全体の企画サポート及び制作コーディネートを担当しました。

展覧会の全貌を垣間見る写真としてしばしば紹介されているのが、上記の作品。篠田太郎の映像作品「月面反射通信技術」が大きく見えています。「世界中同じ月が本当に見えるのだろうか?」 という疑問から出発して《月面反射通信技術》プロジェクトは段ボールで作った自作の天体望遠鏡をビデオカメラにつないでこれまでも東京、イスタンブール、リムリック(アイルランド)、ボストン、ローマ、バーゼル(スイス)、ロサンジェルス、そしてシャルジャ(アラブ首長国連邦)など、世界のさまざまな都市で撮影されています。私達が共有していると思っていること、どこまで果たしてみんなで共有しきれているのでしょうか。

佐々木類 / 2012-2022 / 植物の記憶 : Subtle Intimacy, photo: ArtTank
佐々木類 / 植物の記憶 : Subtle Intimacy 内側, photo: ArtTank

佐々木類は2012年から「植物の記憶」というシリーズを継続的に制作しています。これまで制作されたインスタレーションとしては今回は最大のものを展示しました。訪れた各地で採取した植物をガラスの中に挟みこみ、高温で熱せられた植物が灰となり、植物が育った土地の湿気や雨、空気など生の痕跡が作品となっています。植物の痕跡を残す作品としばしば思われてしまいそうですが、実際は生命のエネルギーを封印した作品です。つまり、ここに見える形跡は単に植物でなく、その植物に閉じ込められていた水や空気でもあります。そして時にそれらは膨張して大きな泡としてガラスの表面を突き破って出で来ようとしていたり、場合によってはガラスを吹き飛ばして大きな穴が開いています。生命、それを表現した作品であると言えます。

宮永愛子 / 結 - ゆい - yui (ties) を中心としたインスタレーション風景 , photo: ArtTank
宮永愛子 / 結 - ゆい - yui (ties) / detail , photo: ArtTank

比較的暗い展示会場での撮影は難しいのですが、手前にあるのボートが「結-ゆい」という宮永愛子の作品です。カヌーの中にはナフタリンの時計があります。ナフタリンは日常の中でもよく見かけるものですが、ご承知の通り、気化しやすい素材で、時間とともに消えていきます。しかしこの封印された作品空間の中では、形は失われつつも、結晶に姿形を変えてガラス面やカヌーの縁に存在し続けています。恵比寿の展覧会は短い会期ではありましたが、この展示期間中にも作品は姿をゆっくり変えていきました。

栗林隆 / 2022 / 元気炉 3号基 , photo:/ ArtTank

栗林隆のカニクレーンに吊られた元気炉3号基。実際にサウナとして機能して人を「元気」にする作品シリーズです。元気炉シリーズは富山の発電所美術館、大谷と3基目ですがコロナ禍が続くなかこの3号機は1人用の形状をしています。右手にある窯で熱せられた薬草スチームがパイプを伝って、ミノムシ型の本体に送り込まれます。展覧会の数日前まで実際に逗子に体験できる作品として海岸に設置されていました。

大巻伸嗣 / 2022 / トキノカゲ The Shadow of Time , photo: ArtTank

本作は、大巻さんの近年の《Liminal Air Space-Time》のシリーズの最新バージョンでした。空気の流れが生み出す見えるようでなかなか実体を捉えにくい彫刻作品です。一枚の布が、噴き上げる風や重力、人々の動き等によって絶えず揺れ動き、空間の中の空気の流れを感じさせます。同シリーズはこれまでにもいくつかのパターンが提示されてきましたが、今回はこれまでにない黒い空間で黒い布で今まで以上に空間のなかで私たちの視覚の曖昧さを感じさせ、流れる時間を体感させる素晴らしい作品でした。見えないものを具現化するという意味で、その日の気温や会場内のお客さんの人数によって繊細に動き方が変わる作品でした。

毛利悠子 / 2021 / 2 SOLOs (Quarantine) photo: ArtTank

こちらは毛利悠子さんの2021作品のアップデート版です。2台のモニターから聞こえてくるのはテニスの音や鳥の鳴き声。作家が海外からの帰国時に滞在した隔離用ホテルで撮影した映像にレコーディングされた音声です。その音声をMIDIピアノが拾い、その2つの音声を模倣した演奏を淡々と続けていました。テニスボールの音が主に左手部分の低音部分ならし、鳥が鳴きだすと右手の高音部分をポロポロと弾いていました。

鈴木ヒラク / Bacteria Sign と road sign (voluta)を構成したインスタレーション, photo: ArtTank

線や記号をリサーチし、その断片をつかって表現を言語を探ってきた鈴木ヒラクさんの初期のシリーズbacteria signが奥にあります。真っすぐな葉脈など存在しません。つまり真ん中の葉脈を繋げながら葉っぱを地面に並べてゆくと、必ず曲がりくねった線が現れてきます。作家はここでは土に枯葉を埋め込み、葉脈の部分を掘り起こすという作業を作品化しています。一方で手前の床に置かれた作品は工事現場から集められたアスファルトの白線部分をつくられたドローイングです。本来の機能、意味から「線」を引き離し、全く異なる別の線を作り出した作品です。

AKI INOMATA / 2018-22 / 彫刻の作り方 How to Carve a Sculpture , photo: ArtTank

手前の白い台座に置かれた小さな彫刻は動物園でビーバーたちが実際に彫った「彫刻」です。その様子がモニターでも紹介されていました。AKI INOMATAさんは ビーバーに木材を与え、彼らが削り出した彫刻を作品とし、また人間や機械にそれを模刻させています。なかにはブランクーシの彫刻のような本当に美しいフォルムもありました。作るということは一体何なのか、美しいとはなんなのか、作者とはなんなのか、アートの根幹を再度揺さぶるような作品でした。ついでに台座の横穴にはカミキリムシが木の中を勝手に彫っている穴の映像もあり、発想自体がおもしろい作品でした。

今回の展覧会は3日間の設営期間、3日の展示期間と非常(非情)に短いものでした。その割には可能なことを全力で皆さんとやることができた展覧会だったと思います。ならば今後も設営3日でいいかと言われれば大きな疑問ですが、イベントの会期や設営についても大きなチャレンジをする機会であったと思います。考えてみれば国際的なBaselアートフェアなどで見られるインスタレーション展示も同じようなスピードでやっているのだろうと推測します。これまでの美術館などにおける展覧会だけでなく、近年さまざまな形でアートが展示される機会が増えています。アートが紹介される機会が増えることは好ましいですが、このスピード感は現在のアートすべてにとって必ずしも好ましい条件ではありません。そのスピード感でクオリティーを維持するためにはアーティストも私達それを支える側も変わってゆかなければならない。そう思える展示でした。

The Voice of No Mans Land:

参加作家: 篠田太郎 / 栗林隆 / 大巻伸嗣 / 宮永愛子 / 鈴木ヒラク / 毛利悠子 / AKI INOMATA / 佐々木類

キュレーション:山峰潤也 コーディネーション : ArtTank (小平悦子+近藤俊郎)

会期:
2022年 5月13日(金) - 5月15日(日)
会場:
恵比寿ガーデンプレイス 「ザ・ガーデンホール」
主催:MEET YOUR ART FESTIVAL 2022 実行委員会(エイベックス・ビジネス・ディベロップメント株式会社)

その他レビューはこちら 美術手帖をご参照ください。 https://bijutsutecho.com/magazine/news/report/25584