展覧会レポート/レアンドロ・エルリッヒ:Both Sides Now - ソウル市⽴北ソウル美術館 (Buk-SeMA)
2019年12月17日~2020年06月21日
昨年末から6⽉下旬までソウル市北ソウル美術館全館で開催されたLeandro Elrich の個展。韓国で開催される意義を熟考した新作と展⽰構成は、意欲的なものとなりました。新作を中⼼にその魅⼒をレポートします。
In the Shadow of the Pagoda
まず始めにご紹介したい作品がこちら “In the Shadow of the Pagoda”。
エルリッヒ作品に通底する「映す」「反射」「虚と実」といったテーマと、韓国の「無影塔 ※」の伝説が出会い、⽣まれた作品です。
※韓国の世界遺産 仏国寺にある2つの三層⽯塔「釈迦塔(無影塔)」と「多宝塔(有影塔)」にまつわる伝説。そこに無いものが現れる(映る)という不思議な鏡池に、建設中の釈迦塔(無影塔)の姿が現れる(現れない)ことによって起きた、⽯⼯とその妻の悲劇の物語。
美術館の2階の展示室からは、池に浮かぶ石塔と、水面に揺らめくその影を見ることができます。池中に佇む風化した石塔とその影は、伝説の悲劇を彷彿させる幻想的な風情を醸し出しています。そして、池の脇の階段を降り1階の展示室に降りると入口が。
水面に映っていたと思った石塔の影は、水面に揺らめくように造作された逆さまの塔なのでした。下から見上げれば、水上の塔が水面に揺らぎ、幻影のようにも見えます。
「無影の塔」の伝説が含有する仏教の教え(実在と幻想、空の思想)と、エルリッヒ作品が見事に合致した作品は、920 cm × 560 cm × H 900 cm の大作となりました。
The Cloud (Sounth Korea), The Cloud (North Korea)
次にご紹介するのは、南北朝鮮の形をした雲シリーズの新作 “The Cloud (South Korea)”と“The Cloud (North Korea)”。
政治情勢に応じて常に変化する南北朝鮮の関係を、雲シリーズの作品コンセプトと重ねた作品。展覧会のタイトルにもなった ジョニ・ミッチェルのBoth Side Nowの詩は、そのコンセプトをもっとも表しているかもしれません。
I've looked at clouds from both sides now From up and down and still somehow It's cloud's illusions I recall I really don't know clouds at all | 私は 今、雲を両側から見ていた 上から下から そしてなぜか いまだに 思い出すのは 雲の幻影 私には 雲について何も 分からない |
Car Cinema
こちらは、13台の砂の車たちが高速道路の映像を見ている映画館 “Car Cinema”。
風化した車たちが昔の姿を追憶して、あるいは、子供が作った砂の車たちが本物の車になることを夢見ているような、ユニークでシュールなインスタレーション。常に「見ること」その意味を我々に問いかけるエルリッヒ作品。本作品では「見る」の主体が砂の車たちに代わり、その行為を象徴する風景を作り出しました。
Coming Soom
開場を待つシアターロビーに並ぶ映画ポスターには、エルリッヒの代表作が油絵で描かれたものです。期待を高める映画館ロビーという作品が、展示会場への導入とそこに掲示される作家紹介を兼ねてしまうという、ウィットに富んだ作品。
このほか、Elevator Maze(2011), Changing Rooms(2008), Lost Garden(2009), The View(1997) といった大型作品が再制作されました。
※ArtTank は、Leandro Erlich Studio と美術館キュレーター Soyeon Bang とともに、韓国での作品制作・展⽰の管理を⾏いました。