発電所美術館にて開催された栗林隆展レビュー 展示作品、その制作背景などについて語ります。
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会期:2020年11月21日―2021年3月21日
発電所美術館はもともと1926年に作られたレンガ造りの水力発電の「旧黒部川第二発電所」。使われなくなっていたものを北陸電力株式会社から町が引き受け、美術館として1995年4月にオープンさせたもの。建物自体が1996年に国の「登録有形文化財」に指定されているというだけでも一度入って見るべき面白い施設。町運営の限られた予算にも関わらず、ハイレベルなアーティストの個展を定期的に続けています。しかも企画、招聘、制作補助まで学芸員さんはたった1人で頑張っています。
美術館のHP自体はいかにも町営らしく、そっけないものであるけれども、ネットで検索すると話題の展覧会をいろいろな方々がとりあげているので問題は無い。現在のコロナ渦で営業はどうなっているのだろうと心配をしつつ1月に行く計画をしたものの、今年は年初から富山市で豪雪のニュース。作品も一部屋外に設置されているとのことで、雪溶けを待って訪問しました。
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栗林隆展で展示された作品は「元気炉」という大きなインスタレーション。栗林隆は東日本大震災以降福島に定期的にリサーチのために通っており、ちょうど原発事故から10年の節目で発電所美術館というエネルギーに関わる美術館から展示の機会で、原子炉を模した作品をつくることに決めたという。そう聞いて、原子炉の外形について調べてみると1960年代に作られた福島の原子炉は第2世代原子炉にあたり、たしかに栗林の作品はその形でした。
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振り返ってみると2015年に青山のスパイラルで開催されたスパイラル30周年記念展「スペクトラム—今を見つめ未来を探す」の展示に出展されていた栗林の「Vortex 2015:A Letter from Einstein」のシャンデリアもその形でした。こちらは原発事故で汚染された土壌をつめるのに使われた黒いフレキシブルコンテナバッグに囲まれた暗室の中で美しく輝くシャンデリア。ルーズベルト大統領にアインシュタインが送った原爆の開発許可を求める手紙の文字をガラスで表現し、文字が周囲のコンテナバッグに映る。一見美しいと思ったものの印象がそれを知った瞬間にがらりと変わります。知っていることと知らないこと、見えることと見えないこと、表裏一体の関係に潜むものを表現した優れた作品でした。
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発電所美術館の作品は「原子炉に入った人が人がみんな元気になって出てきたらどうだろう」と、ネガティブな原発問題をポジティブに表現しようとしたものだそうだ。美術館外部にあるストーブで薬草を煮立てそのスチームを作品の中に送り込む。観客の入った作品内の温度が一定の温度を越えると(メルトダウン)、観客は床下に格納された冷却水に自分がまるで制御棒になった気分で脚をひたす。私たちが訪問した日はあいにく、火を焚いていない日でしたが、サウナの原理を使った作品を体験した観客は実際にリフレッシュして出てくる人が多いそうだ。火を焚いていると中は水蒸気で真っ白に視界がきかなくなるそうですで、その体験も面白そうですが、火を焚いていないときに見ても、造形的にもかなり迫力のある作品でした。
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火を使った作品は普通の美術館での展示はほぼ無理でしょうが、なにか普通の世界では不可能なこと、ばかばかしいこと、とんでもないことをやって見せるという栗林らしい良いアート作品でした。現代美術によく見かける難解さとは一見無縁に見えますが、それでも外見上はしっかりユーモアを見せておきながらも同時にシニカルな意味をちらりとポケットにいっぱい隠してあるのが見えてきます。そうした表裏関係が見えてくる点でスパイラルの作品と共通した鋭さもあります。
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ユーモラスな側面が強いため、スパイラルの展示にあった鑑賞を通じて発見する研ぎ澄まされた作品の鋭さは少しトーンダウンしていますが、代わりに、こちらは作品を体験させることで観客にエネルギーを与える大いにポジティブな装置でした。いまこうして展覧会を振り返ってみてみると現代アートの多様さを今更ながら感じるとともに、こんな前向きな方向性がまだ現代美術で可能だったのだなと再発見させられました。
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